ガネーシャの誕生

 ガネーシャの誕生と、ガネーシャが象頭になった理由については、数多くの異なった伝承がある。


 シヴァとパールヴァティーは結婚したが、シヴァは相変わらず苦行に明け暮れる毎日で、妻を顧みることがほとんどなかった。パールヴァティーは寂しさを紛らわすため、侍女と共に入浴するのが常だった。しかしある日、裸になって侍女たちと浴場で戯れていたときにシヴァが突然帰ってきてその姿を見られてしまい、恥ずかしい思いをしたことがあった。

 シヴァが再び苦行へ行ってしまった後、パールヴァティーは入浴をしようと思い立ったのだが、この前のようにシヴァが突然浴場に侵入してくることがないように息子を作ることに決めた。そして自分の垢で人間の姿を作り、命を吹き込んだ。パールヴァティーの息子は美しい少年に成長し、パールヴァティーの入浴中の警護をするようになった。そしてパールヴァティーは安心して入浴できるようになった。

 ある日、シヴァがまた突然帰って来た。そのときちょうどパールヴァティーは入浴中で、浴場の入り口には息子が立っていた。シヴァは中に入ろうとしたが、見知らぬ少年に止められた。無理矢理中に入ろうとしたシヴァとパールヴァティーの息子の間で遂に戦いになり、シヴァはその少年の首をはねてしまった。

 浴場から出て来たパールヴァティーは自分の息子がシヴァによって殺されてしまったことに怒り悲しんだ。そこでシヴァは従者を北に向かわせ、最初に出会った者の首を、パールヴァティーの息子に取り付けるように命令した。従者たちが最初に出会ったのがたまたま象だったため、息子は象頭になって蘇った。シヴァはその子を従者たち(ガナ)の頭に任命した。


 パールヴァティーは子供が欲しくて仕方がなかったのだが、シヴァは「子供を欲しがるのは命に限りのある人間の感情だ」と言って子供を作ることを拒否していた。しかしパールヴァティーは「私の夫となったからには、妻に子供を与えることは義務です」と言ってシヴァを説得した。パールヴァティーの熱意に負けたシヴァは子供を作ることを約束した。シヴァはパールヴァティーの服を取ると、子供の姿を作り出した。パールヴァティーは喜び、その人形を膝の上に乗せておっぱいを飲ませる振りをした。すると突然その人形に命が吹き込まれ、ガネーシャとなって「ママ」としゃべった。


 シヴァが長い間家に帰って来なかったとき、パールヴァティーは寂しさを紛らわすために息子を創ることを思い立った。パールヴァティーは自分の垢を使って象頭の少年の人形を作った。そしてその人形をガンガーの中に投げ込んだ。すると、人形は命を吹き込まれて浮き上がってきた。それがガネーシャとなった。ところが命を持ったガネーシャは膨張を続け、宇宙を埋め尽くすほど大きくなろうとしていた。そのときパールヴァティーとガンガーが同時にガネーシャの名を呼び、なんとか膨張は止まった。


 信仰が守られていた時代には、神々や聖仙は平穏に暮らしていた。ところが悪のはこびる時代となり、アスラやラークシャサはシヴァへの祭儀を執り行ってシヴァの恩恵を受けるようになった。調子に乗ったアスラたちは神々を攻撃して打ち負かした。

 インドラや他の神々はシヴァに助けを求め、アスラやラークシャサの障害となる存在を創るように懇願した。そこでシヴァはパールヴァティーの方を見た。するとシヴァの口から美しい少年が出現した。その少年はシヴァと全く同じ姿形をしており、シヴァと同じ素質を受け継いでいた。

 ブラフマーは「シヴァが悪の障害となる美しい少年を創り出した」と賞賛した。他の神々もシヴァに感謝している中、パールヴァティーだけはその少年に無意識に性欲を感じていた。シヴァはパールヴァティーの浮ついた心を察知し、自分が創り出した美しい少年に自分の妻が欲情したことに怒った。そしてシヴァはガネーシャを「象の頭を持ち、太鼓腹で、蛇の花輪を身に付けた」醜い姿に変えてしまった。

 シヴァはその少年の名前をガネーシャ、ヴィナーヤカ、ヴィグナラージャーと名付けた。そしてガネーシャに命令した。「成功も失望も全て汝から生じるように、悪の行う祭儀に障害をもたらすように、神々や善人の行う祭儀を助けるように」と。


 あるときシヴァは、ソームナートにあるシヴァ寺院を参拝した者は過去の罪、カースト、性別に関わらず全員天国へ行けるという約束をしてしまった。これにより、ヴェーダに関して何の知識もないような女性、野蛮人、奴隷、罪人までが天国へ来るようになってしまい、天国はパンク状態となってしまった。一方、7つの地獄は全て空となってしまった。シヴァは一度約束してしまったことを取り消すことができず困っていた。そこでパールヴァティーは自分の垢からガネーシャを作り出した。パールヴァティーはガネーシャに言った。「お前は人間の心に欲望をもたらし、信仰を忘れさせ、ソームナートに来なくさせるように生まれたのです。でも、お前を信仰する者に対してだけは、全ての障害を取り除き、ソームナートへ参拝してシヴァの恩恵に預かることができるようにしなさい」と。


 宇宙は暗闇と静寂に包まれていた。突然、音が生じた。その音は次第に大きくなり、宇宙全体に響き渡った。「オーム、オーム、オーム・・・」そしてガネーシャが閃光に包まれて出現した。ガネーシャは目にも留まらない早さで踊り始めた。その踊りは世界創造の踊りだった。

 ガネーシャはブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三神を召還した。ガネーシャは言った。「私は宇宙である。私の中に過去、現在、未来がある。私の中に入り、真実を知恵を探すがよい。」そういうとガネーシャは三神を呑み込んだ。ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァはガネーシャの中で万華鏡のような色とりどりの光に包まれた世界を目にし、自分の過去、現在、未来の姿まで見ることができた。三神は自分の成すべきことを全て理解した。

 ブラフマーは世界の創造を始めた。ところがブラフマーの創り出す生き物は全て変テコな形をしていた。ガネーシャはブラフマーの前に現れ注意した。「お前は創造のときに私のことを考えずに行っている。」ブラフマーは自分の傲慢さを理解し、ガネーシャに世界創造のエネルギーを分けてもらうように頼んだ。ガネーシャの助けにより、世界は正常に創造された。


 ある日シヴァとパールヴァティーは神々の集まるホールに来ていた。そのホールに掲げられていた「オーム」の印を見て、パールヴァティーは象の顔を連想し、シヴァに象の姿で交わることを提案した。その通りに実行したら、象頭の神ガネーシャが誕生した。


 シヴァとパールヴァティーは1000年間性交を続けていた。困り果てた神々はヴィシュヌに助けを求めた。ヴィシュヌは乞食に姿を変えて2人のもとを訪れた。突然の乞食の訪問にシヴァとパールヴァティーは急いで身体を布で覆った。そのときにシヴァの精液がベッドに落ちた。乞食もいつの間にか消えてしまった。その場所に生まれたのがガネーシャだった。


 子供を欲しがっていたパールヴァティーに、シヴァは「絶食をしてヴィシュヌの礼拝をしなさい。そうすればクリシュナが転生してお前の息子として生まれるだろう。」と助言を与えた。パールヴァティーは夫に言われた通りにした。すると、クリシュナがパールヴァティーの子供に転生した。

 全ての神々がパールヴァティーの息子を見るために集まり、皆口々にその子供の美しさを讃えた。ところがスーリヤの息子のシャニだけはパールヴァティーの息子を見ようとしなかった。パールヴァティーがシャニに息子を見るように頼むと、シャニはこう説明した。「私はかつてヴィシュヌ神を凝視することに夢中になってしまい、自分の妻をほったらかしにしてしまっていた。怒った妻は私に『凝視する物全てが破壊されるように』という呪いをかけた。だから私はあなたの息子を見ることはできない。」

 しかしパールヴァティーや他の神々はシャニに是非一目だけでも美しい息子を見て祝福を与えるように頼んだ。そこでシャニは恐る恐る目の端でパールヴァティーの息子の顔を見た。すると、彼の頭が切断されてしまった。ヴィシュヌは悲しむパールヴァティーを慰めるため、ガルダに乗って北に向かい、若い象の頭を持って来てパールヴァティーの息子の胴体に取り付けた。こうしてガネーシャは生き返った。

△▽△▽ 考察 ▽△▽△

◆ガネーシャがパールヴァティーの垢から生まれた話は有名だが、その他にもパールヴァティーの服から生まれたという話もある。これらを総合して考えると、もしかしたら穿ちすぎかもしれないが、垢から生まれた、とか、衣服から生まれた、という話は、いかにもセックスを子供に見られてしまって「何をしてるの?」と質問されたときに、苦しまぎれに答えた言い訳のような感じがする。

◆ガネーシャは一般にはシヴァとパールヴァティーの息子と考えられているが、ヴィシュヌが関わって誕生したと説明する伝承もいくつかある。これはヴィシュヌ派がガネーシャを自分の側に引き入れようと画策して作り出したものだろう。

◆ガネーシャの象頭は、北の方角からもたらされたという点は、妙に一致している。

△▽△▽ 関連名 ▽△▽△

 ガネーシャ(群集の主)ganesha、オームカラomkara(オームの者)、ヴィナーヤカvinayaka、ヴィグナラージャーvighnaraja、ガンゲーヤgangeya