パキスタンの痴漢の話 |
女性がアジアなどの国々を旅行していると、よく痴漢に遭うらしい。日本も痴漢が少ない国とは言えないのかもしれないが、とにかく旅行中でも何でも、痴漢におびえながら生きていかなくてはならない女性たちは男性に比べてハンデがあると言ってよいだろう。
ところが、そんな男性でもその痴漢の恐怖を味わう国がある。それがパキスタンである。他にもあるかもしれないが、僕はパキスタンが今のところもっとも男性を対象とした痴漢の多い国だと断定している。
こんな話がまことしやかに旅行者の間で語り継がれている。
ある若いカップルがパキスタンを旅行していたという。もちろん、カップルと言えば男性と女性である。そのカップルがホテルの部屋にいると、突然ドアが開いて、数人のパキスタン人の男が押し入ってきた。そしておもむろにズボンのチャックを開き始めた。男性の方は、これは彼女をレイプしに来た奴らに違いないと瞬時に判断し、非常に男らしいセリフを吐いた。
「彼女をヤるんだったら、オレを殺してからにしろ!」
そう言って、彼女をかばって立ちはだかった。多分この男性の心の中では、「決まった・・・!」とか思っていたかもしれない。ところが、そのパキスタン人たちは驚くべきことを言って突進してきた。
「もともと女に用はない!」
そして女性の方には目もくれず、男性の方を押し倒すと、男性のみをレイプしたらしい。その間、女性の方はその行為をじっと見守るしかなかったという・・・。
こんなことが起こりうる国なのである。ムスリムの習慣が原因なのかはよく分からないが、男が男をレイプするという事件があるということは、当然のことながら男が男を痴漢するという行為も起こって不思議ではない。ただ、ホモばかりではなく、普通の性感覚を持った男性も当然のことながら多数存在するので、女性が痴漢に遭うことも多い。他のことはともかく、パキスタンでは旅行者が男女平等に痴漢される国だと言える。
そんなパキスタンにこの前1ヶ月行って来たのだが、やはり痴漢らしきものに遭ってしまった。痴漢に遭うということは、自分にもセックス・アピールがあるのかなぁと、妙に嬉しい気持ちになる部分もあったりするが、でもこんなことは初めてだったので驚きを隠せなかった。さすがにレイプはなかったが、一応その痴漢らしきものの数々をここでまとめてみたいと思う。
■痴漢1.
これは痴漢というよりも愛の告白に似ている。ラーホールのあるホテルに泊まっていたときのことだ。僕の部屋は5階ぐらいにあって、エレベーターがなく、もちろん入り口は1階なので、自分の部屋に行こうとしたら階段をひいこら言いながら上っていかなくてはならなかった。1階まで下りて、さぁ出掛けようと思ったときに「あ、忘れ物!」とかなると、非常に苦労したのを覚えている。
その日も僕は階段を一段ずつゆっくり上がっていた。すると、前方の階段の踊り場で従業員がこちらをじっと見ているのに気がついた。その顔は、あんまり頭の良さそうじゃないインド人の典型的顔だった。僕は「アッサラーム・アライクム」と言って通り過ぎようとした。すると、その従業員が呼び止めてきたのである。
「Hey!」
なんだろうと思って、僕は振り向いて立ち止まった。すると、彼は続けた。
「I like you!」
えっ、何?と思っているのも束の間、
「Tonight, I come your room, OK?」
と、とんでもないことを言って来たのである。「今夜、オレはお前の部屋に行くぜ、いいよな?」という意味だろうなぁ、そんで深い意味が込められているんだろうなぁと、今から思うとのんびりと考えて、「これはいかん!」という結論になり、すぐに僕は答えた。
「No!」
するとその従業員は眉間にしわを寄せて、
「Why?」
と言って来たのである。「Why」と言われても、イヤなもんはイヤなんだと説明するのも面倒臭い、ここは無視するしかないと思い、
「Why Why?」
と言いながら軽くかわしてその場を立ち去った。部屋に戻ると、もう一度僕はさっきの会話を思い出し、最初からセリフをひとつひとつ吟味し、やはり奴は僕に詰まるところ「ヤらせてくれ」と言って来たに違いないと理解すると、かなり恐ろしくなって、その夜はちゃんと部屋の鍵をチェックして、電気をつけて寝た。結局その夜は何も起こらず、誰も部屋に押し入ってくることなく、平穏無事にその宿を後にしたのだが、今となっては甘酸っぱい思い出である。
■痴漢2.
これは完全なる痴漢である。ギルギットからフンザ(カリーマーバード)へ向かうミニバスの中でのことだった。ミニバスとは言っても、トヨタのハイエースを改造した交通機関で、あの狭い車内に25人くらいは詰め込んで何時間も走るのである。しかし、人数が揃えば即出発という分かりやすさや、料金の安さ、目的地までの到達時間の早さなどを考え合わせると、パキスタンではけっこう便利な交通機関である。列車が壊滅的だし、公共バスは時間通りに着くはずないし、高級バスはけっこうなお値段であることから、どうしてもこのミニバスに頼るしかなくなってしまうことが多い。第一、ギルギットからフンザへの交通手段はこのミニバスぐらいしかないのである。
僕はそんなハイエース・ワゴンの最後部右から二つ目の席に座っていた。車内には男しかいないから、僕を挟んで座っている人も男である。ギルギットの山の景色を眺めながら、さぁ、いよいよフンザだなぁと思っていたのも束の間、なんとお腹の調子が急激に悪くなり始めたのである。これは長年の経験から分かっている。確実に下痢である。こんな大事なときに下痢になってしまうとは!ギルギットからフンザまで約3時間・・・今までの移動時間の中では格段に短い移動だが、それでも下痢と戦いながらの3時間は地獄と言うより他はない。僕は打ち寄せる下痢の波を必死でかわしつつ、祈るような気持ちで時計の針を念力で進めていた。
しかし、敵は下痢だけではなかった・・・!
下痢に集中していて途中まで気付かなかったのだが、右隣に座っていたおじいさんの様子が変なのである。僕をじっと見つめてきたりするのは、まぁそんなに珍しくもないが、車体が揺れる反動を使ってわざと僕に身体をこすりつけてきたり、僕の右の膝の上に意味もなく手をのせたり、挙句の果てには自分の股間の上で手を意味ありげに動かして、僕に何かを訴えようとしているのだ・・・!
勘弁してくれ・・・!!僕はただでさえ下痢と内戦を行っているのに、外部からも容赦なく攻撃を加えてくるとは・・・!!
しかし、僕は股間の上にカメラバッグを置いて、大事な部分をガードしていたので、直接的な痴漢行為を受けることはなかった。そして下痢がどうにも我慢できなくなったので、途中で勇気を出して車を止めてもらい、岩陰で用を足してからは、席を替えてもらったので、そのおじいさんの攻撃はもう二度と受けることがなくなったのだった。内戦もひとまず落ち着き、フンザに着く頃にはすっかり治まっており、美しい雪山の景色に魅了され、日本料理に似たフンザ料理で内臓の調子を整えたので、フンザ滞在を思う存分楽しむことができたのである。それにしてもあのおじいさんは、あの年になっても男を欲していたのだろうか?
■痴漢3.
これは幾分、こちらの勘違いが含まれているかもしれないが、一応ドキッとしたので紹介しておく。なんと帰国直前の税関において、痴漢的行為を受けそうになったのである。
僕はイスラマーバードからPIAで日本に帰ることになっており、その日はギリギリまで宿で知り合った日本人たちと談笑していたので、結構きわどい時間になってしまっていた。僕は急いで空港へ向かい、Departureの入り口から空港の中に入った。すると、まずは税関があり、荷物検査を受けなくてはならなかった。
その荷物検査をしている人は、ごく普通のパキスタン人男性で、僕を見るといろいろ質問してきた。僕は「あぁ、ここでの会話が今回の旅行の最後のウルドゥー語会話になるだろうなぁ。」と感慨深いものを勝手に感じていたので、できるだけウルドゥー語(というかヒンディー語)で受け答えをした。これが失敗だったのかもしれない。検査官は「ウルドゥー語が分かるのか?」と驚いた顔をして、さらにいろいろ質問を重ねてきた。僕は必死で聞き取って、ウルドゥー語で返していた。こんなにしゃべれるんだから、検査はノーパスで通してくれるかな、と期待していたら、結果は逆。ウルドゥー語をしゃべれるってことで逆に怪しまれたみたいで、荷物を全部開けさせられて、隅から隅まで調べられてしまった。
実はそのとき、僕のバッグの中には、ひとつだけ見つかってはやばいものが入っていた。それはガンダーラの美術品である。パキスタンのガンダーラの遺跡には、必ずガンダーラ美術品の密売人がいて、本物とも偽物ともつかない怪しげなものを売りつけてくるのである。例えば、コインとか、ブッダの顔とか、その他テラコッタだとかである。そこで売られているものはほとんど全て偽物であるというのが通説のため、僕はあまり彼らを相手にしなかったのだが、ミンゴーラの近くのウデグラムでは例外的にそんな密売人の話に乗ってやって、ひとつ買ってあげたのだ。なぜ買ったかというと、単純にかっこよかったから。僕はブッダ・リングと呼んでいるが、ブッダの顔をあしらった指輪である。実は、こういうガンダーラの美術品は国外持ち出し厳禁で、見つかると即没収されてしまうのだった。しかし僕はそのとき、割と無造作にそのブッダ・リングをバッグの中に放り込んでおいたので、十分見つけられる可能性はあったのだが・・・。
アッラーの神のおかげか、偶然か、これでもかってくらいバッグの中を引っ掻き回されたにも関わらず、ブッダ・リングは見つからなかったため、なんとか事なきを得ることができた。検査官は「せっかく上手にパッキングしたのに、すみませんね。」と言って僕のチケットに合格スタンプを押してくれた。本当に冷や冷やした一瞬だった。
これだけなら別に痴漢でも何でもないのだが、検査官の言葉の端々にちょっとホモっぽい一面があったのだ。まず、僕のパスポートの写真を見て「女みたいだ。」と言った。そのときの写真はけっこう髪を伸ばしていたのでそう見えたのかもしれないが、でもその後、「結婚してるのか?」「恋人はいるのか?」などと、普通税関の検査官がそんなことまで聞かんだろうってことを質問してきたので、もしかしてこいつは何か僕の荒を探して、その弱みにつけこんで僕を手篭めにしようと考えているのではないか、と勘ぐってしまったのだ。そう考えると、僕だけがなぜかやたらに厳重に荷物検査をされたことにも納得がいく。もしかして勘違いかもしれないが・・・。とにかく無事に検査が終了したので、今となってはどうでもいいことだ。
さて、パキスタンで僕が遭遇した痴漢的行為を3つ挙げてみたわけだが、最後のひとつはどうでもいいにしろ、残りの二つは確実に僕に対して性的な関係を迫っていると考えていいだろう。ということは1ヶ月の間に少なくとも2回、痴漢に遭ったということだ。これは自慢できる数字かどうかは分からないが、もし痴漢に遭うとどんな気分なのか少し実感してみたい男性諸君は、是非パキスタンを旅行してみることをオススメする。