生カリシュマ・カプール |
日本でもインド映画が一般に認知されるようになって既に何年か経ちましたが、その人気は依然としてタミル語映画に異常なまでに偏っており、インド映画の主流たるヒンディー語映画は、本国の状況からすればあまり一般公開されていません。昔、『Dilwale Dulhaniya Le Jayenge』が『DDLJ シャールク・カーンのラヴゲット大作戦』というとんでもない邦題を共に上映されましたが、あまりヒットしなかったと聞きます。また、『ムトゥ 踊るマハラジャ』以前に『Raju Ban Gaya Gentleman(ラジュー出世する)』が一般公開されたようですが、そのときは僕は東京にいなかったため、残念ながら見ることができなかったばかりか、インド映画の存在すら知りませんでしたが、一応聞くところによると割と客が入ったらしいです。未だにこの映画を見る機会に恵まれてないのが残念ですが。その後、『Dil Se..(心から)』が上映されました。これはなかなかヒットしたのではないかと記憶してますが、どうだったのでしょうか。『Anjaam(アシュラ 復讐の女神)』という映画もありました。ある本には、「これがヒットするかどうかが今後の日本のインド映画の未来の分かれ目」のようなことが書いてあり、けっこう期待して見に行ったのですが、あんまり楽しくありませんでした。というか、観客が僕しかいませんでした。映画館で一人で映画を見るという貴重な体験をさせてもらいました。
そんな訳で、日本のヒンディー語映画の一般上映の状況を見てみると、あるひとつの法則が見受けられます。そうです、シャールク・カーン主演の作品しか上映されていないのです。これもやはり偏っているとしかいいようがないでしょう。確かにシャールク・カーンはトップ・スター中のトップ・スターだし、僕も大好きですが、もっといろんな俳優に焦点を当ててほしいと思うのは僕だけではありますまい。そうそう、そういえば、『ボンベイtoナゴヤ』なるヒンディー語映画もありましたが、これはちょっと例外として除外してもいいでしょう。また、映画祭などで上映されただけの映画も除外してあります。
その点、女優に関しては割といろいろな人が日本に紹介されています。『Raju Ban Gaya Gentleman』ではジュヒー・チャウラー、『Dilwale Dulhaniya Le Jayenge』ではカジョール、『Dil Se..』ではマニーシャ・コイララ、『Anjaam』ではマドゥリー・ディキシット、また、タミル語映画でしたが、『Jeans(ジーンズ 世界は2人のために)』ではアイシュワリヤー・ライと、ヒンディー語映画界のそうそうたる顔ぶれが揃っています。
ところが!!
あと一人、あと一人、ヒンディー語映画界の女王と呼ばれながら、未だに日本の映画館の銀幕に登場していない大物女優がいます。そう、それがカリシュマ・カプールです。僕はカリシュマ・カプールに非常に特別な思い入れがあるのです。そうでなければ、「生カリシュマ・カプール」などという題名をつけるはずがありません。このページは、カリシュマ・カプールに捧げられた1ページなのです。実は、僕は、
カリシュマ・カプールに会ったことがあるのです!
周りではインド映画に詳しい人間がおらず、今までこのことを誰にも自慢することができず、悶々とした気持ちを抱えて生きてきました。つい先日、「ここが変だよ、日本人」に出演しているサニー・フランシスというインド人の方と幸運にも一緒に飲むことができ、このことをちょっと話してみたら、「えっ、ホント?」とかなり驚いておられたので、やはりインド人に対しても結構な自慢話のタネになることだと確信いたしました。
いわんや、日本のインド映画ファンをや。
僕はあまり自慢話をしたりするのは好きではないので、こんなことをホームページに載せると日本のインド映画ファンの反感を買ってしまうのではないかと恐れ多い気持ちになっているのですが、なにしろせっかくカリシュマ・カプールに会ったのだから、その体験をありのままに受け止めて理解してくれる人に一度は自慢してみたいのです。そうです、カリシュマ・カプールが何者なのかをわきまえているあなたに敬意を払いつつ、友情を感じつつ行う自慢行為なのです。どうか、冷静に受け止めて下さい。
場所はラジャスターン州の観光名所ウダイプルでした。ウダイプルにはレイク・パレスという湖上に浮かぶ豪華ホテルがあり、エリザベス女王なども感動したという噂があります。もちろん、僕はそのホテルに泊まれるはずがなく、湖近くの安宿に宿泊しておりました。
レイク・パレスはもともとマハラージャーの宮殿で、ホテル宿泊者しか行くことができません。ところが、湖畔にもうひとつマハラージャーの宮殿があり、こちらも現在は高級ホテルとなっているのですが、そのレストランだけは、200ルピーくらいの大金を払えば中に入ることができるのです。なぜならそのレストランは、レストラン自体がクリスタル・ギャラリーというガラス製品の美術館となっており、入場料を払えば、そのギャラリーを見ることができるうえに、その高級レストランで紅茶を飲むことができるのです。普通の旅行者は入場料の高さからあまり行かないようですが、僕はもう旅行も終わりに近付いていて、お金も余り気味だったので、行ってみる気になったのです。日本円にすれば600円程度の贅沢、この贅沢が僕の運命を左右したのです。
レストランの中に入ってみると、さすがに超高級感が溢れかえっており、クルター・パジャーマーで入ってよかったのだろうか、まぁジーパンよりはましか、などと思いわずらいつつも、まずはギャラリーを見て回ることにしました。なにしろ当時のマハラージャーがイギリスに発注したのに、その死後に届いたため、一度も使われることなくしまわれてしまったガラス細工の品々が展示してあるのです。贅沢な話です。とは言っても、まぁこんなもんか、といった感じで一通り見て回って、紅茶をいただくことにしました。ついでだからケーキも頼んじゃいました。ひとときの贅沢でした。僕は窓際の席に案内され、紅茶が到着するのを待ちました。
すると、隣の席にインド人の若い女性と、そのお母さんと思われる人が座りました。お母さんの方はサリー姿でしたが、その若い女性の方はなんとジャージ姿でした。こんな高級ホテルの高級レストランにジャージで来るとは、よっぽどの金持ちかよっぽどの田舎者に違いないと思って見ていますと、なぜかレストラン内が騒がしくなり、他のインド人の客たちがその女性のもとへ近付いて、「サインしてくれ」だの「写真に一緒に写ってくれ」だの頼んでいるのです。いったい誰なんだろうと思いましたが、じっと見てるとなんだか変に思われそうだったので、チラチラと目を動かしながら、彼女の顔を確認していました。
なかなかの美人でした。一般的なインド人女性と比べれば美人であることには疑いないのですが、超美人かというとそうでもありません。第一、すっぴんでした。う〜ん、誰だろうなぁと思いつつも、豪華なひとときをエンジョイしていました。実はこのとき、僕はカリシュマ・カプールという人を全くしらなかったのです。
そうこうしている内に、彼女たちは軽食を終えて席を立ちました。そこですかさず僕はボーイをつかまえて、「あの人は誰ですか?」と聞いてみました。するとそのボーイは誇らしげに「あの人はカリシュマ・カプール。インドの有名な女優なんだ。」と教えてくれました。カリシュマ・カプール・・・!僕は瞬時にその名前を自分の今までのインド映画ボキャブラリーから探しましたが、見当たりませんでした。そのとき僕が知っていたインド人女優は、カジョール、アイシュワリヤ・ライ、マドゥリー・ディキシットぐらいでした。いったいカリシュマ・カプールがどの程度有名な女優なのか、全く見当もつきませんでした。しかし、もしかしたらすんごい人かもしれない、という焦燥感が沸き起こり、僕も写真を一緒に写ってもらうべきだった!と後悔し始めました。カリシュマ・カプールはまだクリスタル・ギャラリーを見てなかったらしく、レストランの人から説明を受けながら、割とそそくさとギャラリーを見て回っていました。今なら間に合う!と僕は精算を終えて席を立ち、カリシュマ・カプールに追いすがろうと思いましたが、僕のいく手をマネージャーらしき人が立ちふさがり、「近付くな」と言ってきました。僕は「写真を撮らせてくれ」と頼んでみましたが、ダメでした。その間にカリシュマ・カプールはボートに乗ってしまい、レイク・パレスの方へと消えていってしまいました。
なんか話してみると「な〜んだ」って感じですが、この思い出は僕のインド映画キャリアの中で輝かしいものとなっています。前述した通り、あまり人には言ったことがない、というか、この価値を分かってもらえる人が周りにいないのですが、ここで吐き出せて何だか満足しました。
そういえば、その後デリーのメイン・バザールの、映画スターのポスター屋でカリシュマ・カプールの写真を見せてもらいましたが・・・
全然違うぞ!素顔と!
と思いました。やっぱりすごいメイクしてるんでしょうね、映画撮影のときは。