昔々の話よ。海に水がなくなってしまった頃の話よ。この頃、あるところにサガラ王という王様がいたの。サガラ王は、とってもかっこよくて有能な王様で、ケーシニーとスマティという二人のお妃様を持っていたんだけど、どちらにも男の子が生まれなくて困っていたの。そこでサガラ王は山にこもって激しい苦行を行ったの。その苦行に満足したシヴァは、サガラ王の願いを聞き届けてあげることにして、こんな風にお告げをしたのね。
「妻たちのうち、一人に６万人の勇敢な息子が生まれるであろう。しかし彼らは全滅してしまうだろう。もう一人の妻から一人の勇士が生まれるであろう。この者が家系を存続させるであろう。」
やがて、シヴァのお告げ通り二人の妻は身篭って、スマティからは一人の綺麗な男の子が産まれたんだけど、ケーシニーからはなぜかヒョウタンが産まれてきたのよ。変な話ねぇ。サガラ王はそのヒョウタンを捨てようとしたんだけど、その時天からシヴァの声がしたの。
「そのヒョウタンを捨ててはいけない。お前の息子たちを捨ててはいけない。ヒョウタンから種を取り出し、ギー（バターのようなもの）を満たして温めた器の中に入れて大切に保存せよ。そうすれば、お前は６万人の息子を得るだろう。」
そういうことは早く言ってくれって感じのサガラ王だったけど、その通りにしたら、なんとヒョウタンの種から６万人もの男の子が生まれたの。スマティから産まれた一人の男の子はアサマンジャスっていう名前なんだけど、その他の６万人の男の子の名前は面倒だからいちいち言わなくてもいいわね。「６万人の息子たち」って呼ぶことにするわ。
アサマンジャスは普通に成長して、奥さんをもらって、アンシュマットって子供が生まれたんだけど、例の６万人の息子たちは超乱暴者に育ってしまったの。なんせ６万人もいるもんだから、そりゃ目に手も当てられない程の暴虐ぶりよ。あちこち歩き回って、人間だけでなく神々や動物たちを困らせたの。みんなは集まって、その悪事をブラフマーに訴えると、ブラフマーはこう告げたの。
「皆とりあえず帰りなさい。近いうちにサガラの息子たちは、自己のなした行為によって全滅するであろう。」
 しばらくして、サガラ王は馬祭（アシュヴァメーダ）を開催することを計画したの。ここでちょっと馬祭について説明するわね。馬祭ってのは、国王の絶大な権力を示すために催す国家的祭典なの。まず馬を１頭選んで清めるの。それからその馬を北東の方角に放して一年間自由に歩き回らせて、王子たちが軍隊を率いてその後を追うの。一年たったらその馬を連れて帰って、殺して、王妃が一晩その死骸と一緒に寝るの。ちょっとエグい話ねぇ。そして次の朝、馬は切断されてみんなに分配されるの。ま、ざっとこんな感じの儀式。別に大したことのない意味不明の儀式に思えるかもしれないけど、もし馬が他国の領土に入ってしまうと大変なことになるの。もしその馬が他国に捕えられてしまったら、祭式を実行することができなくなるでしょ？そうすると、みんなの物笑いの種になってしまって、国王の権力は失墜してしまうの。だから王子たちは何が何でもその馬を連れて帰らなければならないのよ。馬を連れて帰るために戦争まですることもあるらしいから、本当に命懸けの儀式なのね。
馬祭のことは分かったかしら？サガラ王は馬祭を催して、馬を放って、その６万人の息子たちに馬を守らせることにしたの。馬はしばらく歩き回った後、水のなくなった海にさまよい出て、突然消えてしまったの。６万人の息子たちは国に戻ってサガラ王に「馬が盗まれた」と報告したのね。でも、さっき説明した通り、そんなことはあってはならないことなの。なんせ国王の権威が懸かってるんだから。サガラ王は６万人の息子たちに「全世界を探せ！」って命令したの。そこで６万人の息子たちは言われたとおり地上の全てを歩き回って捜したんだけど、見つからなかったの。６万人の息子たちは再びサガラ王のところに戻って、「発見できませんでした」って報告したんだけど、サガラ王はカンカンに怒って、「馬を見つけてくるまでは帰ってくるな！」って言って、６万人の息子たちを追放してしまったの。
６万人の息子たちは全世界を探し回っていたんだけど、ある時、大地に亀裂があるのを見つけたの。もしや、と思ってその亀裂を掘り下げて行ったら、ついに地底界まで辿り着いてしまったの。そしてなんとそこに、例の馬がいるのを発見したの！そして馬のそばにはカピラ仙っていう偉大な仙人が瞑想していたの。ところが、６万人の息子たちはカピラ仙を馬泥棒と勘違いして、カピラ仙に武器をとって打ちかかってしまったの。その無礼な態度にカピラ仙は怒って眼を見開いて怪光線を発して、６万人の息子たちを焼き殺してしまったの。６万人の息子たちの遺灰は地中に埋まったままだったから、彼らの霊も地下に閉じ込められてしまっていて、天界に行けずにいたの。
６万人の息子たちが灰になってしまったことを知ったサガラ王は、しばし茫然としていたんだけど、シヴァの予言を思い出して予言が的中したことを悟ったの。しかもこの時、６万人の息子たち以外の息子、アサマンジャスは発狂して、市民の子供を捕まえては川に投げ込むという訳の分からない行動をするようになってしまっていたから、サガラ王はアサマンジャスを追放してしまっていたの。いろいろ頭を悩ます問題が続いて困っていたサガラ王は、アサマンジャスの子アンシュマットを呼んでこう言ったの。
「６万人の息子たちが、私のためにカピラ仙に燃やされてしまった。私はお前の父をも捨ててしまった。私はお前の父を追放したこと、６万人の息子たちが死んだこと、そして馬祭の馬を失ったこととで苦しんでいる。私を救ってくれ。地底界から馬を連れ戻してくれ。」
そこでアンシュマットは地底界に行って、カピラ仙に会って、地にひれ伏してお願いに来た旨を告げたの。カピラ仙はその態度に満足して、「願いを聞き届けてやる」って答えたの。そこでアンシュマットはまず、「馬を返して下さい」って頼んだの。するとカピラ仙は馬を返してくれたの。今度は未だ天界へ行けずにいる６万人の息子たちの霊を供養するために「叔父たちを清めるための水を下さい」と頼むと、カピラ仙はこんな予言をしたの。
「お前の子孫がガンガーを天界から地上へ降ろすであろう。そしてその水で遺灰を清めれば、サガラの息子たちも天界へ赴くことができるであろう。」
アンシュマットは馬を連れて国に帰って、こうしてサガラ王は無事馬祭を行うことができたの。サガラ王は長年の間、国を治めて王位を孫のアンシュマットに譲って天界へ逝ったの。
アンシュマットも長年の間、国を治めた後、息子のディリーパに王位を譲ったの。ディリーパは先祖たちが全滅してしまったことを知り、それを悲しんでいたの。ディリーパは何とかして天上のガンガー、つまり私を地上に降ろそうと努力したんだけど、その方法を見つけれずに、息子のバギーラタに王位を譲って天界へ行ってしまったの。この頃の私は天界をきままに流れていたから、あんまり地上に行く気がしなかったのよね〜。
バギーラタも先祖である６万人の息子たちが天界に行けずにいることを知って悲しんで、王国を大臣に任せてヒマーラヤ山中に行って苦行を始めたの。バギーラタは１０００年の間激しい苦行を行ったから、とうとう私もその根性に負けてバギーラタの前に姿を現したの。そして「何でも望みを叶えてあげるわ」って言ってあげたのね。するとバギーラタはこう言ったの。
「私の先祖であるサガラの６万人の息子たちは、馬を探しているうちにカピラ仙に殺されてしまって、地底界にいます。あなたが彼らの身体を清めないうちは、彼らは天界へ赴けません。どうか先祖を天へ赴かせて下さい。」
私はそれに答えてこう言ったの。
「私はあなたの願いを叶えてあげます。しかし、私が天から地上に降りたら、その衝撃は大変なものです。全世界に、シヴァ神を除いてそれを支えることのできる者はおりません。そこで、苦行によってシヴァを満足させて、私が落ちる時、その頭で私を受け止めるように頼みなさい。」
そこでバギーラタは、私の言ったことを間に受けて、シヴァのいるカイラーサ山へ行ってまた激しい苦行を行ったの。シヴァは満足して、私を頭で受け止めることを承諾してくれたの。シヴァはバギーラタを連れてヒマーラヤ山に来て、バギーラタにこう言ったの。
「さあ、ヒマーラヤの娘である河の女神に祈れ。俺様はガンガーが天から落下する時に受け止めるであろう。」
 私はそれを聞いて、勢いよく飛び降りようとしたんだけど、やっぱシヴァでも私を支えるのは無理かなぁ、なんて思ったの。だってその時は体重が数百トンもあったから。言っとくけど、今はもっとスリムになってるわよ、当然。私はシヴァに「やっぱりあなたでも無理なんじゃない？」って言ったら、シヴァは怒ってしまって、「いいから早く降りて来い！」って鼻息を荒くしたの。私はもうどうにでもなれって感じで地上に飛び降りたら、シヴァはちゃんと私を頭で受け止めて、こうしてガンガーは地上を流れるようになったのよ。空っぽになっていた海にも水が戻ったし、バギーラタも私の水を使って６万人の息子たちを清めて供養したし、全てがめでたしめでたしって感じになったのね。
ところが、私だけはめでたくなかったの。シヴァは私が彼の力を見下したことに怒っていて、私を髪の毛の中に閉じ込めてしまったの。だから、私はこの臭い髪の毛の中でこうしてガンジス河の水を出し続けてるってわけ。あぁ、天界にいた頃が懐かしいわ。地上に降りてこなければ良かったって今じゃ思ってるけど、もう後の祭ね。
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