◆キーチャカの殺害◆
 王妃シュデーシュナーには、キーチャカという弟がいた。キーチャカはマツヤ国軍の総司令官をしており、マツヤ国では国王よりも権力を持っていた。また、その腕力はビーマに勝るとも劣らなかった。そのキーチャカが、シュデーシュナー妃の女中として働いていたドウラパディーに一目惚れしてしまい、求愛してくるようになった。

 ドウラパディーは「私はガンダルヴァ(精霊の一種)の妻で、私に言い寄る者はガンダルヴァに殺されてしまう」と言い訳をして逃れようとしたが、キーチャカは少しもその話におびえることなく求愛を続けた。そしてとうとうキーチャカは暴力によってドウラパディーを我が物にしようとして来た。ドウラパディーはなんとか逃げ出し、料理人として働くビーマに助けを求めた。

 ビーマはドウラパディーの話を聞くと怒り、キーチャカを夜1人でおびきだして、殺してしまった。ドウラパディーは「ガンダルヴァが怒ってキーチャカを殺してしまった」と言いふらしたが、かえってドウラパディーはマツヤ国の市民の恐怖の的となってしまった。また、この噂はパーンダヴァの100王子の長男ドゥリヨーダナの耳にも届いた。

 ドゥリヨーダナは13年目が始まったときからスパイを方々へ放ってパーンダヴァの5王子の情報を集めていたが、探し出すことができなかった。ところが、キーチャカがガンダルヴァに殺されたという報を聞いたとき、キーチャカを殺せる者はこの世にビーマぐらいしかいないことや、その原因となった女中がドウラパディーに似ていることから、ドゥリヨーダナはマツヤ国にパーンダヴァの5王子がいるのではないか、と疑うようになった。そして、その真相を確かめるべく、マツヤ国の仇敵トリガルタ国と手を結んで、マツヤ国に攻め込んだのである。