昔、ウッジャイニーのヴィクラマーディティヤ王は、ナヴァグラハの9人の神を自分の宮殿に招いたことがあった。そこには9つの席が用意されていたが、ワシにあてがわれたのは末席であった。けしからんことに、ヴィクラマーディティヤ王はワシをナヴァグラハの中で最も劣った神だと考えておったのだ。ワシは、「ワシが人間の幸不幸を左右するのであり、他の神より重視すべき神である」とヴィクラマーディティヤ王に警告したが、王は「どんな運命が待ち構えていようと、それに立ち向かうのみ」と言って聞き入れようとはしなかった。ワシはヴィクラマーディティヤ王を一度懲らしめてやろうと決めたのだ。
その後しばらくして、ウッジャイニーの街に一人の商人が訪ねて来た。その商人は世にも珍しい、美しい馬に乗っていた。早速その噂はヴィクラマーディティヤ王の耳に届き、商人は王に呼ばれたのだった。ヴィクラマーディティヤ王は馬を見るとすぐに気に入り、乗ってみることにした。しかし、王がその馬に乗ると、馬は急に走り出して、遠くへ走り去ってしまったのだ。王がどんなに制御しようとしても馬は止まろうとせず、侍従たちもその馬を止めることができなかった。やがてヴィクラマーディティヤ王は見知らぬ国の森の中に迷い込んでしまい、飢えと渇きでフラフラとなってしまった。
ヴィクラマーディティヤ王を助けたのはある裕福な商人だった。商人はヴィクラマーディティヤを王とは知らなかったが、家に泊めてやることにしたのだ。ヴィクラマーディティヤ王は商人の家の一室に寝ることになったのだが、その夜、王は不思議な現象を目の当たりにした。なんとその部屋の壁に掛けてあった真珠のネックレスが壁に吸い込まれてしまったのだった。翌朝、商人は真珠のネックレスがなくなっていることに気付き、ヴィクラマーディティヤが犯人であると勘違いして、裁判所に連れて行った。ヴィクラマーディティヤは泥棒の罪によって、手足を切断されてしまった。
両手両足をなくしたヴィクラマーディティヤは、油売りの使用人となってなんとか生計を立てていた。ヴィクラマーディティヤは歌がうまかったので、油売りの仕事の傍ら、歌を歌っていた。それをたまたまその国の姫が聞いて、ヴィクラマーディティヤに恋をしてしまった。姫の両親は手足のない者と結婚することを止めさせようとしたが、姫は聞かず、ヴィクラマーディティヤと結婚することになった。
結婚式の夜、ワシはヴィクラマーディティヤの夢の中に現れ、今までの災難は全てワシを侮辱したことから起こったことであることを教えてやった。ヴィクラマーディティヤは改心し、ワシを祝福して許しを求めた。ワシもヴィクラマーディティヤを許すことにし、両手両足を元に戻してやった。と同時に、商人の家から消えた真珠のネックレスも元に戻した。実はあれもワシの仕業だったのだ。商人は驚いて、ヴィクラマーディティヤに許しを乞い、自分の娘を王に差し出したのだった。
こうしてヴィクラマーディティヤ王は2人の妻と共に、ウッジャイニーの都へ帰還したのだ。ワシを怒らせるとどうなるか、分かっただろう? |