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 一昔前に比べ、ヒンディー語映画(ボリウッド)のDVDは劇的に安くなった。もっとも安いものは30ルピー代で手に入るほどだ。ほとんどのDVDに英語字幕が付いていることもあり、インド在住者であっても、映画館ではなく専らDVDでヒンディー語映画を楽しむという人が増えている。そこで、21世紀のヒンディー語映画の中でオススメの映画を、ジャンル別に紹介しようと思う。オススメ作品にもいろいろな種類のものがあるが、一般の日本人がある程度楽しめるであろう作品を主に取り上げる。

 それぞれの映画の詳細は、日記中の映画評を参考にしていただきたい。映画評早見表はこちら

 随時更新予定。
ロマンス
 ロマンスは映画の王道。ヒンディー語映画でもロマンス映画は星の数ほど作られている。

 20世紀前半に活躍したベンガル人作家シャラトチャンドラ・チャットーパーディヤーイの小説は何度も映画化され、インドのロマンス映画の定番となっている。「Devdas」(2002年)は21世紀のボリウッドを代表する傑作であるし、「Parineeta」(2005年)も素晴らしい。前者は悲恋モノだが、後者はハッピーエンドである。

 ラブコメに分類されるライトなノリのロマンス映画では、「Hum Tum」(2004年)がオススメだ。漫画を効果的に利用し、すれ違いの恋が長年を経た後に実るまでがコメディータッチで描かれている。「Pyaar Ke Side/Effect」(2006年)は、男女の恋愛観の違いをうまくコメディーに料理した作品。イムティヤーズ・アリー監督の「Jab We Met」(2007年)は、ロードムービー的テイストを混ぜながら、傷ついた心の癒し合いによって成就した恋愛を描いた傑作。同監督の「Socha Na Tha」(2005年)も隠れた名作ロマンス映画であるし、「Love Aaj Kal」(2009年)も良い。「Band Baaja Baaraat」(2010年)はスターパワーに欠けるが、フレッシュなロマンス映画。「Tanu Weds Manu」(2011年)や「Mere Brother Ki Dulhan」(2011年)は破天荒なヒロインにヒーローが振り回されるラブコメ映画。

 それとは逆に、狂おしい恋愛を描いた映画では、「Gangster」(2006年)が傑作である。韓国を舞台に、ギャングと美女の破滅に向かう狂おしい恋愛を描いた作品。同監督のオムニバス形式映画「Life In A... Metro」(2007年)も大人向けの作品である。「Woh Lamhe」(2006年)も狂おしさでは天下一品。また、「Veer-Zaara」(2004年)は、分断国家であるインド・パーキスターンをまたいだ恋愛劇の大作である。

 愛するが故の復讐劇という、愛の究極の形を描いた「Ishqiyaa」(2010年)は傑作。尊厳死をテーマに神々しい愛の姿を描いた「Guzaarish」(2010年)はヒットしなかったものの完成度は高い。

 昔ながらの恋愛観を超越した新世代のためのロマンス映画としてオススメなのは、「Jaane Tu... Ya Jaane Na」(2008年)。異性間の友情は恋愛に発展するか否かを突き詰めた、インドでは新感覚の作品。だが、21世紀の新感覚ロマンス映画の先駆けは「Dil Chahta Hai」(2001年)であった。この映画は、年上の女性とのロマンスを描いたことでも話題になった。年の差ロマンスの決定版となると、「Cheeni Kum」(2007年)が挙げられる。どちらかというと青春ロードムービーに分類されるが「Zindagi Na Milegi Dobara」(2011年)も素晴らしい映画である。婚約を破棄することでストーリーが完結するという、ロマンス映画としては珍しい結末だ。

 結婚後のロマンス、つまり不倫にあたる恋愛はインド映画ではほとんど描かれない。その中でも「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)は、退屈な日常と刺激的な非日常の間で揺れ動く女心のストーリーを、巧みな脚本によってインドの道徳観念と矛盾しない形で成立させたロマンス。結婚後に夫婦が恋愛を確かめ合うというプロットでは、「Main Madhuri Dixit Banna Chahti Hoon」(2003年)も良作である。インド国内では酷評されたが、「Kabhi Alvida Naa Kehna」(2006年)は、インド映画の中では冒険的な不倫ストーリーである。それらを超越し、スーフィズムの概念を取り入れて結婚を越えた恋愛を声高らかに歌い上げたのが「Rockstar」(2011年)。この作品を監督したイムティヤーズ・アリーはヒンディー語映画界におけるロマンスの帝王である。

 結ばれるはずもなく、やはり結ばれないのであるが、心に残る男女の関係という、大人の恋愛を描いた作品としては「Chalo Dilli」(2011年)がある。低予算映画ではあるが個人的にとても好きな映画だ。

 ちなみに、ヒングリッシュ映画(インド製英語映画)になるものの、「Mr & Mrs Iyer」(2002年)は、宗教問題を背景に大人の恋愛を描いた傑作である。ベンガリー語と英語で進行する「The Japanese Wife」(2010年)はファンタジーの部類に入るロマンス映画だが、インド人男性と日本人女性の文通による恋愛と結婚が描かれており、日本人としては興味深い作品である。

ドラマ
 ロマンスとかぶる部分もあるが、特にクライマックスで泣ける作品をピックアップ。

 「Kal Ho Naa Ho」(2003年)は、ニューヨーク在住インド人が主人公の感動作。バランス抜群の娯楽大作である。死をテーマにしている。同様のテーマの映画としては、低予算映画ではあるが、「Dasvidaniya」(2008年)が傑作。

 ファミリー・ドラマの決定版と言えるのが「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2002年)。オールスターキャストの豪華な映画。

 「Swades」(2004年)は、在外インド人(NRI)が故郷インドへ戻り、インドのために貢献することを決意するまでを描いた感動作。

 「Black」(2005年)は、ヘレン・ケラーの人生をベースにしたインド映画。ボリウッド映画の常識を超越した突然変異的作品。

 「Rang De Basanti」(2006年)は、若者に社会改革のための決起を訴えかける問題作。映画の影響力は甚大で、社会運動を巻き起こした。同じようなテーマの名作に「Yuva」(2004年)がある。

 「Taare Zameen Par」(2007年)は、失読症の子供を主人公にした感動作。

 「Rock On!!」(2008年)は、ロックバンドの解散と再結成を描いた感動作。インド映画としては珍しく、本格的ロック音楽で満ちあふれている。

 「Fashion」(2008年)は、モデル志望の女性がファッション界で成功、失敗、そして再起するまでを描いた作品。題名通りきらびやかなファッション満載で女性にも受けがいいだろう。

 ヒングリッシュ映画になるが、「Monsoon Wedding」(2001年)はインドの結婚式で起こりうる様々なゴタゴタを追いながら家族の結束を描いた傑作。ただ、邦題「モンスーン・ウェディング」で日本でもDVDが発売されている。

アクション
 アクションもインド映画の基本だ。21世紀に入って、単純な筋のアクション映画は下火になって来ていたが、2010年前後から再びアクション映画が復活して来ている。

 「Dhoom」シリーズはボリウッド・アクションの定番。「Dhoom」(2004年)はスズキのバイクが主人公とも言えるバイク映画。「Dhoom:2」(2006年)もスリルあるアクション・シーン満載。

 「Main Hoon Na」(2004年)は様々な娯楽要素満載の痛快アクション映画。

 「Ghajini」(2008年)は南インド映画のリメイクで、南インド直輸入の派手なアクションが楽しめる。

 インド初のカンフー映画は「Chandni Chowk to China」(2009年)。完成度は低いが、中国ロケのインド映画という点でも歴史的作品である。

 「Dabangg」(2010年)は、一昔前に流行したスタイルのアクション映画を復活させた作品。ストーリーはありきたりだが面白い。これが好きな人なら、「Singham」(2011年)も楽しめるだろう。

コメディー
 コメディーはインド映画の真髄である。コメディー映画を理解しないものにインド映画は理解できないと言っても過言ではない。ラブコメ映画も多いのだが、ここではコメディーに特化したストーリーの映画を紹介する。

 「Munnabhai」シリーズはコメディー映画として定評がある。今まで「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)と「Lage Raho Munnabhai」(2006年)が公開されている。主人公のコンビは今やインディアン・ジョークの主人公として一人歩きしている。

 いかにもインド映画的な、娯楽要素満点のライトなコメディー映画の傑作も多い。「Bunty Aur Bubli」(2005年)は、カップル泥棒を主人公にした軽快なコメディー映画。実在のスマートな泥棒を映画化した「Oye Lucky! Lucky Oye!」(2008年)も良作である。

 インドのコメディー映画にはプレイボーイがよく登場する。「No Entry」(2005年)は、真面目な男がプレイボーイの友人を真似して不倫に手を出すことが始まるドタバタ劇。「Maine Pyaar Kyun Kiya」(2005年)は、プレイボーイが1人の女性に本当に恋してしまい、彼女と結婚するまでを描いたコメディー映画。「Mr Ya Miss」(2005年)は、プレイボーイがある日突然女の子になってしまったと言うコメディー・ファンタジー。「Heyy Baby」(2007年)は、プレイボーイ3人組が突如子育てをしなくてはならなくなったというストーリー。「Partner」(2007年)は、もてる男ともてない男のコンビがおかしいコメディー映画。

 「Tere Bin Laden」(2010年)は低予算ながら、偽オサーマ・ビン・ラーディンのビデオを使って一儲けを企んだらそれが本物と断定され大騒動に・・・という荒唐無稽な作品だが傑作。インド映画ながらパーキスターンが舞台という点も異色。「Bheja Fry」(2007年)も低予算映画だが、脚本の力でウィットに富んだコメディーとなっている。

 低予算のしょうもないコメディー映画は数多いが、やはり日本人には大予算型のゴージャスなコメディー映画の方が楽しいだろう。そうした場合、「Singh is Kinng」(2008年)がオススメである。スクリーン上の相性抜群のアクシャイ・クマールとカトリーナ・カイフが共演したゴージャスな傑作コメディー映画。

時代劇/伝記
 歴史や歴史上の人物を主題にした映画はコンスタントに作り続けられている。

 「Jodhaa Akbar」(2008年)は、ムガル朝皇帝アクバルとヒンドゥー教の姫との間のロマンスを描いた大作。元々は1960年の作品であるが、2004年にカラー化されて公開された「Mughal-e-Azam」も、インド映画史を代表する歴史映画の傑作である。

 独立運動時代の出来事を扱った映画は多いが、傑作は少ない。「Rang De Basanti」(2006年)は、正確な歴史描写ではないが、独立運動時代の若き革命家たちがテーマとなっている。「Gandhi My Father」(2007年)は、マハートマー・ガーンディーの長男ハリラール・ガーンディーを主人公にした作品。

 「Guru」(2007年)は、リライアンス・グループの創始者の人生を非公式にベースにした立身出世劇。「Woh Lamhe」(2006年)は、女優パルヴィーン・バービーの人生をモデルにした狂恋映画。「The Dirty Picture」(2011年)は南インド女優シルク・スミターの人生をモデルにした映画。

 以下は失敗作の部類に入るが、テーマに興味のある人は見てもいいだろう。「Asoka」(2001年)は、アショーカ王を主人公にした娯楽映画。「Taj Mahal: A Eternal Love Story」(2005年)は、シャージャハーンとムムターズ・マハルが主人公の歴史ロマンス映画。「Bose: The Forgotten Hero」(2005年)は、チャンドラ・ボースの伝記映画。日本人にはあまり馴染みのない革命家バガト・スィンを主人公にした映画は21世紀では2本あり、「The Legend of Bhagat Singh」(2002年)と「23rd March 1931: Shaheed」(2002年;未見)である。インド大反乱の先駆けとして知られるマンガル・パーンデーを主人公にしているのは「Mangal Pandey The Rising」(2005年)。「Khelein Hum Jee Jaan Se」(2010年)は1930年のチッタゴン反乱をテーマにした映画。「L.O.C. Kargil」(2004年)や「Lakshya」(2004年)は1999年に印パの間で起こったカールギル紛争をテーマにした映画である。「Gandhi to Hitler」(2011年)はヒトラーの最期を描いた異色映画。インド人俳優がドイツ人を演じるという離れ業をしているが超駄作。

スポーツ
 日本ではお馴染みのスポ根モノであるが、インドではあまり好まれて来なかった。スポーツが映画の中心的テーマとなるようになったのはつい最近のことである。

 インドの国民的スポーツであるクリケットをテーマにした愛国主義映画「Lagaan」(2001年)は、ボリウッドのスポーツ映画の草分け的存在。21世紀のボリウッドはこの作品から始まると言っても過言ではない。同じくクリケットをテーマにした映画では、「Iqbal」(2005年)が傑作の誉れ高い。

 女子ホッケーを題材にした「Chak De! India」(2007年)は、インド製スポ根映画の決定版。

 他に、ヒット作ではないが、サッカーをテーマにした「Dhan Dhana Dhan Goal」(2007年)、ボクシングをテーマにした「Apne」(2007年)や「Lahore」(2010年)などが特筆すべきである。

ホラー/サスペンス
 ホラー映画は決してインド映画の伝統的ジャンルではないが、21世紀に入ってチラホラと作られるようになった。

 「Raaz」(2002年)は、インド製ホラー映画の草分け的存在。ストーリーにつながりはないが、続編的扱いの「Raaz - The Mystery Continues」(2009年)も作られている。映像的に迫力があるのは、「1920」(2008年)である。だが、日本映画が完成させた、心の奥底まで震え上がらせる怖さはまだボリウッドは達成できていない。よって、日本の観客に自信を持って勧められるホラー映画はない。

 逆に、インド映画的娯楽要素満載のホラー映画の方が日本人には目新しいだろう。インド製ホラー映画として完成度の高いのは、「Om Shanti Om」(2007年)と「Bhool Bhulaiyaa」(2007年)である。

 ホラー映画と同様に、国際的レベルに達しているスリラー映画やサスペンス映画はインドには少ないのだが、いくつか脚本中心の傑作スリラー/サスペンス映画が登場している。「Johnny Gaddar」(2007年)、「Aamir」(2008年)、「A Wednesday!」(2008年)などがその代表例だ。

SF/スーパーヒーロー
 SF映画やスーパーヒーロー映画もボリウッドでは新しいジャンルである。

 「Koi... Mil Gaya」(2003年)はインド版「E.T.」。SF映画をインド映画的にうまく料理した作品。その続編「Krrish」(2006年)は打って変わってスーパーヒーロー映画。やはり今までインド映画に馴染みのなかったジャンルを巧みにインド映画的に作ってある。

 「RA.One」(2011年)はコンピューターゲームのキャラクターが現実世界に現れ、悪役と戦うという作品。大予算映画で映像に迫力があり、ヒットしたが、設定が難解で賛否両論である。

 以下は失敗作になるが、「Love Story 2050」(2008年)は、インド版「タイムマシン」を狙った作品。「Drona」(2008年)はスーパーヒーロー映画とアドベンチャー映画のミックスだが、稚拙な作りで大失敗に終わった。「Taarzan」(2004年)は、スーパーカーに霊が乗り移って復讐するという仰天のストーリーだが、面白くない。

 元々タミル語映画ではあるが、「Robot」(2010年)も一見の価値がある。タミル語版タイトルは「Enthiran」で、上記のものはそれと同時公開されたヒンディー語吹替版。日本で人気のラジニカーントが主演のロボット映画である。

社会派/ノンフィクション
 インド社会の様々な問題に、真面目に、または娯楽要素も交えながら、取り組んでいる映画は実は少なくない。また、実際にあった事件を映画化したノンフィクション志向の映画も作られている。

 インド映画に宗教問題を扱った映画は多いが、「Dharm」(2007年)が傑出している。「Black & White」(2008年)も傑作である。

 インド各地では連続爆破テロ事件が頻発しているが、それも映画の格好のテーマとなっている。「Black Friday」(2004年)は、1993年のムンバイー連続爆破テロ事件の実行犯を追った迫真の映画。また、「Mumbai Meri Jaan」(2008年)は、2006年のムンバイー連続爆破テロ事件の犠牲者や遺族を題材にした映画。911事件後の米国におけるイスラーム教徒の受難を描いた作品はいくつかあるが、「My Name Is Khan」(2010年)がもっとも話題性が高い。

 デリーの不動産マフィア問題を扱っているのは「Khosla Ka Ghosla!」(2006年)でよく出来ている。「Jugaad」(2009年)は、デリー市局(MCD)によるシーリングやデモリッションをテーマにした、プロデューサーの自伝的映画。低予算の駄作だが、事件に関心のある人は見ておいて損はない。

 マドゥル・バンダールカル監督の映画は、実際に起こった事件をもとにしていることが多い。中でも、「Traffic Signal」(2007年)はムンバイーの乞食問題を娯楽映画的手法で映画化しており、異質である。他に、同監督の「Corporate」(2006年)は飲料水への農薬混入事件をテーマにした企業戦争映画、「Fashion」(2008年)はファッション界に起こった事件を盛り込んだ作品である。

 エイズをテーマにした映画もいくつかある。「Phir Milenge」(2004年)や「My Brother... Nikhil」(2005年)である。

 幼児婚と寡婦問題を扱っているのは「Water」(2007年)。寡婦問題は「Dor」(2006年)もテーマにしている。

 「Summer 2007」(2008年)は、マハーラーシュトラ州の農民自殺問題を扱っており、隠れた傑作。「Peepli [Live]」(2010年)も農民自殺問題を取り上げた風刺作品で、やはり名作のひとつ。

 「3 Idiots」(2009年)は、過度の競争主義に陥っているインドの高等教育制度を批判しながらも、コメディーを交えてドラマチックに仕上げた最高レベルの娯楽映画。

 近年起こった事件を掘り下げた映画も多い。「Amu」(2005年)は、1984年のスィク教徒虐殺事件を題材にした映画。「Shootout At Lokhandwala」(2007年)は、1991年に起こったマフィア一斉射殺事件をテーマにした作品。「Dhoop」(2003年)は1999年のカールギル紛争で殉死した軍人の遺族への手当てを巡る法廷闘争を描いた作品。「Parzania」(2007年)は、2002年のグジャラート暴動をテーマにした映画。「Halla Bol」(2008年)や「No One Killed Jessica」(2011年)は2006年に世間を騒がせたジェシカ・ラール事件を題材にしている。

 逆に、社会に大きな影響を与えた映画もある。「Rang De Basanti」(2006年)は、ジェシカ・ラール事件におけるロウソク行進運動など、権力に大衆が立ち向かうファッションを規定した。「Lage Raho Munnabhai」(2006年)は、インド人の間に非暴力的抗議法を流行らせた張本人である。

 映画の影響で特定の問題がクローズアップされることもあった。「Salaam Namaste」(2005年)は、未婚の男女の同棲と妊娠がテーマになっていた。「Taare Zameen par」(2007年)では失読症が取り上げられ、教育界の関心を引いた。

アンダーワールド
 マフィア、ギャング、テロリスト、ドラッグなど、裏社会を舞台にした作品。

 シェークスピアの作品をインドの風土に完全に溶け込ませることに成功した「Maqbool」(2004年)や「Omkara」(2006年)は、アンダーワールド映画の傑作である。どちらもヴィシャール・バールドワージ監督の作品。

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督もムンバイーのアンダーワールドや裏社会を題材にした映画を執拗なまでに作り続けている。「Sarkar」シリーズが代表作である。「Sarkar」(2005年)と「Sarkar Raj」(2008年)が作られている。「Company」(2002年)も良い。

 寡作だが、プラカーシュ・ジャー監督の作品も素晴らしい。21世紀では、「Gangaajal」(2003年)、「Apaharan」(2005年)、「Raajneeti」(2010年)が公開されており、どちらも傑作の誉れが高い。「Raajneeti」は政治闘争がテーマだが、やっていることはマフィアの抗争と同じ。

 テロをテーマにした映画は食傷気味なほど存在する。下っ端の実行犯の視点に立った映画では「Black Friday」(2007年)が傑作。

 無意味なまでに悪の格好良さを追求したのは「Musafir」(2004年)。主演のサンジャイ・ダットの男臭い魅力爆発。

 ドラッグ・カルチャーを前面に押し出したのは、「Dev. D」(2009年)。「トレインスポッティング」的映像表現が特徴。

アニメ/子供向け
 21世紀に入り、ボリウッドでは、アニメ映画や子供向け映画も盛んに作られるようになっている。神話を題材にしたものが主だが、そうでないものも生まれつつある。

 一般公開を念頭に置いた子供向け映画の先駆けはヴィシャール・バールドワージ監督の「Makdee」(2002年)である。以後、インドでも子供向け映画がジャンルとして定着したが、傑作と呼べるものは少ない。同監督がラスキン・ボンドの作品を原作に撮った「Blue Umbrella」(2005年)ぐらいが特筆すべきだ。

 インドのアニメ映画の先駆けは「Hanuman」(2005年)。「ラーマーヤナ」に登場する猿の将軍ハヌマーンの物語。アニメ大国出身の日本人の目には稚拙に映るが、歴史的作品である。

 「Roadside Romeo」(2008年)はインド製3Dアニメ映画の傑作。インド神話アニメ映画の潮流から完全に脱却しながら、インドらしさも十分に醸し出している点が素晴らしい。

エロ・グロ
 インド映画にあからさまなエロは出て来ないし、たとえブルーフィルムを謳っている映画でも局部の露出は登場しない。それでも、映像やストーリーなどの観点から際どい線を行っている映画はいくつか存在する。ここに挙げるタイトルは必ずしも名作ではないが、参考までに紹介する。

 スキンショーと呼ばれる、女優の肌の過度な露出やベッドシーンは、「Raaz」(2002年)、「Jism」(2003年)、「Murder」(2004年)などのヒットを通してボリウッドに定着して行った。だが、その後は単に女優が脱ぐだけではヒットしなくなり、この傾向は後退して行く。シャワーシーンではホラー映画「Raaz - The Mystery Continues」(2009年)がもっとも際どい映像に挑戦している。

 通常、インド映画では乳首などの露出はないが、なぜか「Sins」(2005年)ではそれがあった。理由は未だに分からない。事故として扱っていいだろう。「Love Sex aur Dhokha」(2010年)では、露出はないものの、かなりリアルなセックスシーンがあった。

 「Girlfriend」(2004年)はレズビアンをテーマにして物議を醸した。「Dunno Y... Na Jaane Kyon」(2010年)はゲイを扱ったがそれほど話題にはならず。「Dostana」(2008年)でも男性同士の同性愛がテーマになったが、劇中に出て来る主人公は本物のホモではない。同性愛者が良心的に描かれているのはむしろ「Fashion」(2008年)である。他に、「Mango Souflle」(2003年)や「Straight」(2009年)も同性愛を扱っている。

 しょうもない下ネタが大好きな人には「Kyaa Kool Hai Hum」(2005年)。「Boom」(2003年)も下品なシーン満載の映画である。「Neal 'N' Nikki」(2005年)は処女喪失映画とも言うべきもので、インド人を観客に想定していないのではないかというぐらい下品な映画である。逆に、ヒングリッシュ映画ではあるが、「Mumbai Matinee」(2003年)は、32歳童貞が主人公の童貞喪失コメディーである。

 「Nishabd」(2007年)は、インド版「ロリータ」と言えば分かりやすいだろう。ロリコンやコスプレなどの異常性愛は、「Dev. D」(2009年)でも少し見られるが、映画の中心的題材ではない。

 グロとしては「Delhi Belly」(2011年)を挙げたい。「デリー腹」とは「旅行者性下痢」という意味。後は想像にお任せのスリラー映画。

その他
 いくつか特殊な視点からヒンディー語映画をジャンル分けしてご紹介。

■リメイク

 まずはボリウッドの過去の作品のリメイク。その成功例と言えるのは「Don」(2006年)。「Don」(1978年)のリメイクだが、ストーリーが変わっており、原作を知る人には驚きの展開となる。「Agneepath」(2012年)も、1990年の同名映画のリメイクだが、ストーリーを効果的に改良しており、優れたリメイクの一例である。だが、リメイクが原作を越えることは少ない。大失敗の代表例は「Ram Gopal Varma Ki Aag」(2007年)。伝説的映画「Sholay」(1975年)のリメイクだが、大失敗に終わった。「Karzzzz」(2008年)は、「Karz」(1980年)のリメイクだが、細かい点で失敗している。「Om Shanti Om」(2007年)も「Karz」のルーズなリメイクである。

 原作が同じであるため、結果的にリメイクとして扱われる作品もいくつかある。ミルザー・ムハンマド・ハーディー・ルスワー著の小説「ウムラーオ・ジャーン」を原作にした映画は今までいくつも作られているが、もっとも有名なのはムザッファル・アリー監督レーカー主演の「Umrao Jaan」(1981年)。21世紀に入り、「Umrao Jaan」(2006年)が制作されたが、ムザッファル・アリーのものより高い評価は得ていない。敢えて言うならば、主演アイシュワリヤー・ラーイの美貌と衣装の豪華絢爛さが最大の見所。シャラトチャンドラ・チャットーパーディヤーイ著の小説「デーヴダース」も何度も映画化されているが、21世紀にはシャールク・カーン主演で「Devdas」(2002年)が作られ、成功を収めている。アバイ・デーオール主演「Dev. D」(2009年)も「デーヴダース」原作の映画と言える。

 南インド映画からのリメイク作品も多い。最大の成功例は「Ghajini」(2008年)であろう。タミル語映画「Ghajini」(2005年)のリメイクである。「Bhool Bhulaiyaa」(2007)は、マラヤーラム語映画「Manichitrathazhu」(1993年)やタミル語映画「Chandramukhi」(2005年)のリメイクで、やはり大ヒットした。

 ボリウッドにハリウッド映画のパクリは非常に多く、いちいち挙げていったらキリがないのだが、オマージュという形で堂々と作られた映画もある。「Sarkar」(2005年)は「ゴッドファーザー」(1972年)のオマージュ映画である。「We Are Family」(2010年)はハリウッド映画「Stepmom」(1998年)のリメイクだが、キチンとクレジットに明記されており、パクリではない。「Players」(2012年)はハリウッド映画「The Italian Job」(2003年)の公式リメイク。

 韓国映画からのパクリもチラホラ出て来ている。「Zinda」(2006年)は、韓国映画「オールド・ボーイ」(2003年)のパクリであるし、「Ugly Aur Pagli」(2008年)は、韓国映画「猟奇的な彼女」(2001年)のパクリである。他に、「Ek Din 24 Ghante」(2003年)はドイツ映画「ラン・ローラ・ラン」(1998年)のパクリである。

■神話ベース

 神話はインド映画の最大のアイデア源である。特にアニメ映画では、神話をそのままアニメ化したものが多い。「Hanuman」(2005年)が代表例だ。神話に登場するキャラクターを主人公にストーリーを膨らませた形式のアニメ映画も少なくない。「Hanuman」の続編「Return of Hanuman」(2007年)はその種の映画である。

 神話を再解釈して現代人向けのストーリーに仕立て上げたものには、「Raajneeti」(2010年)や「Raavan」(2010年)などがある。前者は「マハーバーラタ」、後者は「ラーマーヤナ」を原案としている。

■特殊なロケ地

 21世紀のインド映画の海外ロケ地としては、米国、ヨーロッパ、東南アジア、ドバイ、南アフリカ共和国など、在外インド人(NRI)の活動拠点と重なる地域が一般的になっているが、ロケ地が特殊な映画もいくつかある。「Kabul Express」(2006年)は、アフガン戦争後のアフガニスタンでロケが行われた冒険的作品。「Gangster」(2006年)は、おそらくインド初韓国でロケが行われた映画である。「Chandni Chowk to China」(2009年)は中国ロケが行われた初のヒンディー語映画である。

 ちなみに、「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)でも日本の風景が出て来るが、日本でロケが行われた訳ではなさそうだ。

■異例の特別出演

 驚きの特別出演がある映画もいくつかある。「Padmashree Laloo Prasad Yadav」(2005年)のラストには、ベテラン政治家ラールー・プラサード・ヤーダヴが特別出演。「Fool N Final」(2007年)のプロモビデオには、ボクシング選手のマイク・タイソンが特別出演。「Singh is Kinng」(2008年)のエンドクレジットでは、ラップ歌手スヌープ・ドッグが出演。「Victory」(2009年)には、オーストラリアの有名なクリケット選手ブレット・リー以下、様々な国のクリケット選手が多数出演している。「Blue」(2009年)には、オーストラリアの歌手カイリー・ミノーグが特別出演。

■ハリウッド資本

 ハリウッドが関与したボリウッド映画が増加中である。ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントが「Saawariya」(2007年)と「Straight」(2009年)を、ワーナー・ブラザーズが「Saas Bahu and Sensex」(2008年)と「Chandni Chowk to China」(2009年)を、ウォルト・ディズニーが「Roadside Romeo」(2008年)に出資している。これら以降、ハリウッド資本映画は珍しくなくなっている。

■シリーズ

 ハリウッドではヒット作の続編は珍しくないが、ボリウッドでは意外にも続編制作は最近始まった新しい傾向である。もっとも有名なのは「Munnabhai」シリーズと「Dhoom」シリーズである。前者は今まで、「Munna Bhai M.B.B.S.」(2003年)と「Lage Raho Munnabhai」(2006年)が、後者は今まで「Dhoom」(2004年)と「Dhoom: 2」(2006年)が作られている。ちなみに「Munnabhai」シリーズにはストーリー上のつながりはない。

 他にシリーズ映画、または直接ストーリー上のつながりがないながらもタイトル上シリーズということになっている映画には、コメディー映画「Hera Pheri」(2000年)と「Phir Hera Pheri」(2006年)、コメディー映画「Golmaal」(2006年)と「Golmaal Returns」(2008年)と「Golmaal 3」(2010年)、ホラー映画「Raaz」(2002年)と「Raaz - The Mystery Continues」(2009年)、ホラー映画「Darna Mana Hai」(2003年)と「Darna Zaroori Hai」(2006年)、ホラー映画「Murder」(2004年)と「Murder 2」(2011年)、コメディー映画「Bheja Fry」(2007年)と「Bheja Fry 2」(2011年)、アクションスリラー映画「Don」(2006年)と「Don 2」(2011年)などがある。

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